【発表のポイント】
●葉緑体の祖先である藍藻(らんそう)注1)が、植物は必要としていないナトリウムイオン(Na+)を利用して光合成を制御することを明らかにしました。
●光合成を制御する機構に関してNa+/H+ 対向輸送体 注2)の機能と生理学的役割を明らかにしました。
●バイオマス燃料生産や農作物の収量向上など持続可能な社会構築にむけた技術応用が期待されます。
脱化石燃料、再生可能エネルギーの生産、食糧増産、環境保全は、現代社会における重要な課題です。この解決策の一つとして、太陽光エネルギーをバイオマスに変換する光合成の効率を最適化することが期待されています。光合成生物の藍藻や植物葉緑体は、太陽光エネルギーを活用し、生体膜に水素イオン (H+)の濃度差を作り出すことで、CO2から糖を生成するため、H+ 濃度の調節機構はきわめて重要です。
東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻の辻井雅助教らは、植物葉緑体の祖先である「藍藻」のNa+/H+の対向輸送体が光合成の制御において重要な役割を果たすことを初めて明らかにしました。藍藻の膜タンパク質であるNhaS1およびNhaS2 注3)と呼ばれるNa+/H+対向輸送体が、特に強い光の下で細胞内 H+ 濃度を調節し、光合成を最適化することが確認されました。このイオン輸送体の機能と役割の発見により、光合成の最適化メカニズムの理解が進み、藍藻を活用したバイオ燃料の生産や、農作物の収量向上といった実用的な応用が期待されます。
この研究は、日本女子大学、大阪公立大学、早稲田大学、中央大学、立命館大学との共同研究により行われました。本研究の成果は、2024年10月24日に米国植物生理学会誌「Plant Physiology」にオンラインで掲載されました。
注1)注1. 藍藻(らんそう): 藍色の藻類のことで、太陽エネルギーによって光合成を行う独立栄養生物。植物葉緑体の祖先であり、最近ではシアノバクテリア、または藍色細菌と呼ばれることも多い。
注2)Na+/H+ 対向輸送体:細胞膜や細胞内小器官の膜を介してナトリウムイオン(Na+)と水素イオン(H+)を交換する輸送体で、生物界に広く保存されている。細胞内 pH、もしくは細胞内ナトリウムイオン濃度の調節に貢献する。
注3)NhaS1、NhaS2:藍藻のSynechocystis sp. PCC6803株が保持する膜タンパク質で、生体膜を介してNa+とH+を交換する機能をもつ。光合成の促進や強光からの保護に重要である。
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