研究成果のポイント
●体験などを消費する「コト消費」における価値判断の定量化を、fNIRS脳機能イメージングで実現
●「コト消費」の価値を反映する脳活動パターンを発見
●商品の「コト消費」がもたらす価値を脳機能レベルのエビデンスで評価することが可能に
理工学部人間総合理工学科/研究開発機構 教授の檀 一平太らの共同研究グループは、光を用いた非侵襲の脳機能イメージング法である機能的近赤外分光法(fNIRS)#1を利用して、「コト消費」(体験消費)における価値判断時の脳機能を可視化し、効果を定量化することに成功しました。
近年、モノを対象とした購入ではなく、体験等を対象とした「コト消費」と呼ばれる消費形態が注目を集めています。「コト消費」は認知バイアス#2と密接な関係があり、今回の研究ではその中でも「IKEA効果」に焦点を当てました。IKEA効果とは、ばらばらの製品を消費者自身の手で組み立てることによって支払い最大価格(WTP) #3が高く評価される認知バイアスのことで、「コト消費」と深く関連していることが分かっています。
今回我々は、IKEA効果が生じることを確認した上で、IKEA効果の認知メカニズムを脳機能の観点から検討しました。具体的には、商品を組み立てる体験(DIY経験)をした「DIY条件」のWTPは、商品を組み立てない「Non-DIY条件」よりも高いという仮説を立てました。そして、学生30名にDIY経験有・無の条件を作り、それぞれの製品写真を見せてWTPの評価を行ってもらいました。同時に、評価中の脳機能を、WTPの評価や愛着、記憶の呼び出しに関連する前頭前野を中心に計測しました。その結果、DIY条件の方がNon-DIY条件に比べて左背外側前頭前野/前頭極の活動が優位に大きいことが分かりました。この脳領域は、強い印象を伴う出来事を呼び起こす際に活動することから、IKEA効果のメカニズムに関連する脳領域として妥当なものです。これにより、今回観察されたIKEA効果の脳内表象ではDIY経験によって製品に対する強い印象が生じ、WTP計測時に製品写真を見ることでDIYの短期的な記憶が想起されたことを反映したと推測しました。
DIYのような体験をもとにした「コト消費」の価値判断を脳機能計測によって定量化したことは、fNIRSを活用した「コト消費」のニューロマーケティングの発展に寄与すると期待されます。
【用語の解説】
#1 機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy :fNIRS):光トポグラフィ、機能的、ニルス、光機能イメージング法などとも呼ばれる。近赤外光を利用し、脳神経活動によって引き起こされる局所的な大脳皮質における脳血流の変化を、血中の酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を計測する方法である。他の脳機能イメージング検査法と比較して、低拘束、非侵襲、安価、装置がコンパクト、といった利点を持つ。
#2 認知バイアス:人の思考が合理的な考え方から外れて、思考に歪みが生じること。IKEA効果の場合は、商品としては同じでも、自分が組み立てたという経験によって付加価値が生じ、実際の適正価格から外れた値付けをおこなうという認知バイアスが生じる。
#3 支払い最大価格 (Willingness To Pay: WTP):ある商品を購入する際に支払っても良いと思う最大価格のこと。