2024.10.23

理工学部教授 不破 春彦:強力な抗がん作用を示す海洋天然物の分子構造決定と完全化学合成に世界で初めて成功

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【研究成果のポイント】

◆沖縄県西表島近海由来の渦鞭毛藻(うずべんもうそう)*1)から発見された海洋天然物「イリオモテオリド-1a」は、複雑な分子構造と強力な抗がん作用から、世界各国の化学者から注目されていた。

◆イリオモテオリド-1aの立体構造*2)の解明については、高知大学の研究グループによる単離以降、17年もの間、数多くの研究グループが挑戦してきたが、決定できていなかった。

◆本研究では、NMR構造解析*3)、計算化学、合成化学の統合的アプローチにより、世界で初めてイリオモテオリド-1aとその天然同族体イリオモテオリド-1bの構造決定と化学合成(全合成)に成功した。

◆従来的なアプローチでは決定が困難な天然物の立体構造を効率的に解明できるようになり、天然物創薬やケミカルバイオロジーなどの研究領域での革新的な化合物の発見・創出が期待される。

 中央大学理工学部 教授の不破 春彦と高知大学農林海洋科学部 教授の津田 正史らの研究グループは、沖縄県西表島近海で採取した渦鞭毛藻から単離した、抗がん性海洋天然物「イリオモテオリド-1a」およびその天然同族体「イリオモテオリド-1b」の立体構造を決定し、完全化学合成(全合成)に成功しました。

 イリオモテオリド-1a は強力な抗がん作用を有する天然物として世界各国の研究者から注目されてきたものの、その複雑さからNMRデータに基づいて立体構造を解明することが難しく、数多くの研究グループの挑戦が退けられていました。このため、イリオモテオリド-1a は、現在、立体構造の決定が最も困難な分子の一つとして知られています。本研究では、NMR構造解析に加えて、計算化学、合成化学の統合的アプローチにより、イリオモテオリド-1aおよび-1bの全立体構造の効率的な解明に成功するとともに、世界初の全合成を達成しました。すなわち、天然標品のNMRデータを再解析した上で候補となる立体異性体*4)群を絞り込み、次いで計算化学によるシミュレーションと合成化学による検証で、全立体構造を決定する戦略としました。また、今回決定した立体構造を元に市販原料より合成したイリオモテオリド-1aは、天然標品とよい一致を示し、培養ヒトがん細胞に対してナノモル濃度で増殖を阻害することも確認しました。今後は、イリオモテオリド-1aや-1bの抗がん作用のメカニズム解析や動物実験による薬効の確認へと研究を展開します。

 世界には、いまだ構造式が定まらず、その利活用が立ち遅れている複雑な天然物が数多く存在しますが、本研究で開発した統合的アプローチによる効率的な構造解明で、天然物創薬やケミカルバイオロジーなどの研究領域で革新的な化合物の発見・創出が進むことが期待されます。

 本研究成果は、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society (JACS)」のオンライン版に2024年10月17日(米国東部時間)付で公開されました。

【用語解説】
*1)渦鞭毛藻: 主に海洋に生息する単細胞生物で、鞭毛を使って回転性の遊泳運動をするものが多い。光合成による独立栄養性と、他の原生生物等を捕食する従属栄養性に分類される。多種多様な天然物の生産者として知られている。

*2)ここでの「立体構造」は、学術的には「立体配置」と呼ぶのが正確である。

*3)NMR構造解析: 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルによる構造解析。

*4)異性体: 同じ分子式を持ちながら、構造の異なる化合物のこと。異性体は、構造異性体と立体異性体に分かれており、構造異性体は、異性体のうち分子式が同じで構造式が異なるもの、立体異性体は、分子の立体的な構造が異なるために生じる異性体である。

Amphidinium属の渦鞭毛藻 (写真提供:高知大学 津田 正史教授)
フラスコ壁面に結晶化した50mg ほどのIriomoteolide-1a (写真提供:中央大学 不破 春彦教授)

 詳細は、大学ホームページの「プレスリリース」をご覧ください。

 また、ご興味をお持ちの方は、下記の情報もご覧ください。
  中央大学理工学部応用化学科 天然物有機化学研究室

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