2023年2月28日、経済学部教授 佐々木創が「チーム環境in Myanmar」が主催したミャンマー在住の若手人材向けに環境経済学に関する講義をオンラインで行いました。
主催者の「チーム環境in Myanmar」とは、環境分野を業務内容に含む日系企業や、環境面での活動展開に積極的な日系企業のメンバーを中心に編成され、環境分野での取組における共通課題や中長期的展望・脱炭素等の新たな市場環境への対応等について意見交換を行っている有志のチームです。
このようなチームで議論していた際に、 ミャンマーの環境分野の人材育成が重要だという議論になりました。この背景には2021年2月に起こったミャンマーの政変の影響により、大学などの教育機関が止まっており、2023年3月時点でも大きな影響が残っており、ミャンマーの人材育成機能について、長い空白期間が生じてしまっていることが挙げられます。
そこで、ミャンマーの社会人、特に、環境意識の高い企業や日系企業の環境・SDGs・カーボンニュートラルの戦略立案もしくは実務担当者及び国連等の国際機関や、大学生を対象者として『“チーム環境教育”セミナー』をチーム環境in Myanmarが開催しています。 同セミナーを通じて将来の環境人材の育成を行うことは、ミャンマーの環境への貢献に繋がると考えられます。
本学部の佐々木創は、セミナーの初日のテーマ「環境経済、廃棄物分野」に登壇し、ミャンマーの民間企業や大学生68名が聴講しました。
講義では経済学で環境問題を考えるためには、経済分析による政策・ビジネスモデルの立案の重要性を確認したうえで、環境ビジネス市場が正しく機能するためには法規制が重要であることを日本の実例から共有しました。その上で、ミャンマーで発生している廃車の実例(※1)から問題を発見し、必要な対策、国際協力を検討しました。最後に、目指すべき循環経済を経済学から考えると、付加価値を付けながら資源消費量を削減する経済モデルが求められることを示しました。
講義のあと、聴講者と質疑応答を行いました。「ミャンマーが循環経済を形成する上での課題とポテンシャルは?」という問いに対しては『ミャンマーはまだ環境法制度の細則が決まっていないことが最大の課題である。しかし、細則が決まって運用する際に先進国を追い抜く勢いで新たなサービス・技術が一気に普及するリープフロッグ(leapfrog:蛙飛びの意)が出来る可能性があり、具体的にはITを駆使し情報追跡することで、廃棄物が再びリサイクル原料化されるまでのトレーサビリティを確保し、循環経済の基盤を構築できるよう実証事業を実施している(※2)』ことを紹介するなど活発な議論がなされました。
講師の独り言
「環境分野の国際協力でプロフェッショナルになりたい」と決意した契機は、内閣府青年国際交流事業(※3)で2001年にミャンマーに派遣された時でした。調査研究することでミャンマーに恩返しする機会はなかなか巡ってきませんでしたが、ようやく2020年度に環境省「ミャンマーにおける廃棄物管理能力向上方策検討調査」で専門家として廃棄物処理法制定の支援していました。ところが、最終報告会の直前の2021年2月に政変が起こりプロジェクトは止まってしまいます。 私が途方に暮れている時、市民的不服従運動(CDM)に参加しなかったミャンマーの官僚から「政府が変わっても、毎日ごみは出ます」とメールを貰い、自分はまだプロフェッショナルになれていないことに気付かされ「今出来る範囲で協力しよう」と思っておりました。したがって「チーム環境in Myanmar」のメンバーから本セミナーの企画を聞いた時は二つ返事でした。今のミャンマー情勢から「希望を持って」とは気軽に言えませんが、「学びを止めないで」と次のミャンマーを担う聴講者に少しでも伝わっていれば幸いです。
(※1)詳細の論文はこちらをご参照ください。
(※2)https://plus-c.chuo-u.ac.jp/researcher/so-sasaki/ の「スマート資源循環システムの構築」をご参照ください。